この方剤も、近年、保険漢方でも使用されているので、かなり有名になっているようだ。
神経内科医の愚娘が、近畿地方に赴任していた頃、某漢方メーカーさんに、この方剤を使ってみてくれ、といつも勧められていたそうだ。
高齢者が比較的多い神経内科には、確かに適応する患者さんもあるかもしれないが、単独で使用する場合では、補助療法といったレベルに終りかねない。
しかしながら、むやみやたらに使用したところで、この温暖化と暖房設備の充実した生活環境においては、本方のような温性の方剤には、かなり注意が必要である。
とはいえ、高血圧患者にはあまり使用できないという条件を除けば、十全大補湯ほどの偏った癖も少ないから、誤投与しても、強い弊害はでない。
ただし、熱証の患者さんに使用すれば、ひどくほてり感を生じて、苦情を出される原因になるので、寒熱弁証は、しっかり分析しておかなければならない。
なんといっても、配合薬物中の、朝鮮人参が曲者で、ブログ的日録「
漢方と漢方薬の真実」でも、朝鮮人参の使用上の注意を書いたことがあるので参照されたい。
なぜ朝鮮人参は使ってはいけない場合があるのか
ところが、この方剤の昇提作用を利用すると、これに加える方剤如何によっては、優れた効能を発揮する。
単独では使用しにくい本方剤も、正確な弁証論治にもとづく応用から、どちらかと言うとやや冷やす性質のある方剤、
六味丸と併用するケースが、意外に多いのである。
あるいは六味丸の加法。すなわち、味麦腎気丸や知柏腎気丸などと合法するケースである。
たとえば、テレビなどで宣伝される尿漏れの漢方薬、八味丸では、辛温の附子のために、軽度の副作用が生じていることが多い。
尿漏れや、夜間多尿というケースに、八味丸と決め込むのは早計で、弁証が間違っているケースが多いということである。
よく観察すると、六味丸系列の適切な方剤に、補中益気湯の合方こそ、適切な場合も多いということなのだ。
そのほかにも、この合法は、思いがけない疾患に適応があったりするので、病名に拘らず、よく覚えておかれるべき繁用の配合であるはずだ。
とは言え、補中益気湯中の朝鮮人参では不都合な場合が多々あるが、さいわいにイスクラ産業などから販売されている「補中益気丸」は、朝鮮人参のかわりに「党参(とうじん)」が使用されており、大変理にかなっている。
何が理にかなっているか、といえば、近年、ますますネット販売など「医薬品を陳列したお誘い販売」にのって、安易に注文を出す患者さんも多いからだ。
ネット販売する側も、綿密な相談販売を行なっているところは、比較的少ないのが現状だ。
それゆえ、
党参のようなマイルドな中薬の配合であれば、朝鮮人参のような利点もあれば、あわなかった場合の弊害も強いということもないので、誤って使用されても、問題が生じにくいからである。
但し、
党参使用の補中益気丸は、保険は一切きかないので、念のため。
参考文献:
漢方医学および中医学における人参の問題点
多くの漢方処方中の人参は党参(とうじん)を用いるのが正解かも?!