続いて、今回は、最初の気持では、昭和五十五年前後の経験例を掲載した拙著「求道と創造の漢方」の中からピックアップして、それらを引用するつもりでいた。
ところが、計算してみたところ、書籍中では、大した分量に見えないようでも、このブログに転載するとなると、かなり膨大な量になる。
これでは、ますます誰も読んでくれないだろう、やはり書物に含まれる情報量の多さには、あらためて再認識した。
あの、情熱に燃えていた昭和五十年代、つまり1970年代の自分自身の熱気を思い出す、克明詳細な経験例が述べられているのだが、そこは割愛して、補気建中湯と言う方剤のまとめを書いた部分の一部だけをピックアップしよう。
補気建中湯
(主治)
済世全書(中脹門)に、「鼓腸を治す。元気、脾胃虚損、宜しく中を補い、湿を行(めぐ)らし、小便を利すべし。切に下すべからず」とあります。
これは、腎が正常に働いて排泄作用を行なうには、脾が正常に働いていなければならず、脾が働くためには腎の力が必要だが、元気衰えた時には脾も腎も互いに助け合うどころか、決壊したダムが水量の多さに持ちこたえられず、ますます決壊がひどくなり、もはや取り返しが付かないという状態で、脾と腎は共倒れになりかけた時の、まさに起死回生の妙薬ということができましょう。
と、何ともたどたどしい解説であるが、解説中に一つ足りないのは「肺は気を主(つかさど)る」という肺の役割の重要性である。
脾・肺・腎の重要性のうちの、肺の役割が欠落しているが、済世全書(中脹門)の条文にあわせた解説だったから、やむを得ぬか。
私の使用した補気建中湯の処方内容及び分量は、大塚敬節・矢数道明両先生監修による「経験漢方処方分量集」(医道の日本社発行)に従って、
人参 白朮 茯苓各3.0g 陳皮 蒼朮各2.5g 黄芩 厚朴 沢瀉 麦門冬各2.0g (一日量)
この分量は比較的少なく、本によっては(この分量の)1.5倍以上のものがあります。
やはり、引用はこの程度にしておこう。
本の半ページを引用しただけでも、この長さである。
三十年前の拙著の内容を、ほんの一部だけ引用してみたのは、つたないながら、補気建中湯の適応条件のいくらかを、イメージとして捉える表現のしかたとして、面白いと思ったからである。