漢方医学、中医学といえども、病名は重要である。
明らかな風邪あるいは風邪に類似した病状なら、おのずから考慮される漢方薬方剤は、かなり絞られて来る。
弁証論治においても、病名は重要である。
まッ、理屈はともかく、銀翹散製剤(天津感冒片や涼解楽など)は、風邪治療の最も代表的な方剤である。
中医学を学んだものなら、常識中の常識で、「青い風邪には葛根湯だの、赤い風邪には銀翹散」などの、製薬メーカーが制作したようなキャッチコピーやリーフレットなど、あまり信用しないほうがよい。
最初に青い風邪(寒がる風邪)であっても、多くは温病である。この表現が納得できなければ、最初は傷寒から始まって、直ぐに温病に転化すると、いえば納得できますか?
もちろん、すべてがすべての風邪に、銀翹散系列の方剤で治療できるなどと断定するのではない。
最大公約数的に、「風邪に葛根湯」などという迷妄を排するためには、対抗上、「風邪には銀翹散製剤こそが主役!」と、タイトルにしたのである。
風邪に、青いも赤いもないものだが、メーカーさんや薬局さんは、売らなきゃメシが食えないから、何とか宣伝文句をひねり出すのだろう、などと失礼な発言はするつもりは毛頭ないが、一見常識と思えることにでも、専門家なら常に真偽を糾す科学的態度が、常に必要である、ということである。
常識を疑え! と言いたいのだ。
「風邪に葛根湯」というキャッチコピーは、間違っている! もはや言ってはいけない常識に似た非常識である。
咽喉腫痛を伴えば、まず銀翹散製剤を思い浮かべよ、ということだ。
葛根湯加桔梗石膏? いくらなんでも石膏ではチト重すぎやしませんか?
これでは、いつまでも日本漢方の最も悪しき伝統を墨守するのみに終って、思考停止の世界じゃないですか?
ヤッパシ、辛涼解表、軽宣透表の薬物を用いるべきでしょう。
最初に、悪寒が強くとも、よ~~く、観察してみることですよ。
その悪寒のひどいときに、一時的に(麻黄で副作用を生じない体質の患者さんであればという条件付で)、ほんの一時的に麻黄湯や葛根湯を用いるにしても、必ず銀翹散製剤を併用すべきですよ。
むしろこんな時には、本当は秘策がある。秘策があるという言い方は、不適切かもしれない。
風邪を引いた原因を分析をすれば、わかりやすい。当然の一つの考え方だ。
「邪の湊るところ、その気は必ず虚す」の応用で、虚に乗じて邪が侵入するわけだから、風邪を引く一つの原因、一時的な虚証を「参蘇飲」など使用して、これに銀翹散製剤・板藍根と併用する。
悪寒が取れた時点で、多くの場合、参蘇飲は中止し、銀翹散製剤・板藍根を中心に、必要に応じて
地竜(体温計とは無関係に
熱感が強い場合)などを加える。
と、簡単な粗筋を書いたが、実際には、銀翹散製剤を中心にしたバリエーションが様々にある。
といっても、そのバリエーションは、流行性感冒や、それに類似したひどい風邪症状の場合のことで、一般の風邪では、
銀翹散製剤と板藍根、時に参蘇飲や地竜があれば、まかなえることが、多い。
どうみても、傷寒からはじまっても温病に直ぐ転化してしまうのが、流感のみならず一般の風邪の実体であると思えてならないのである。
ともあれ、銀翹散は大変便利すぎて困る面もあり、臨床応用としては、様々耳鼻咽喉科疾患などに有効であるばかりでなく、虫歯の疼痛によく効くのである。
そのお陰で、小生の歯はガタガタである。
いくら疼痛が治まっても、ヤッパシ、歯医者さんでガリガリ削って治療してもらわないとイケナイ。
以上、あくまで専門家向けの談話である。
一般の方は、参考にはしても、素人療法は決してしないで欲しい。
専門家に必ずご相談なさることです。
日本国中には、必ずどの地方にでも、中医学にご理解のある専門家がおられます。