桂枝茯苓丸における使用上の注意は前回にも述べているが、もう一つ大きな問題点があるので補足しておきたい。
それは日本で製造される桂枝茯苓丸および桂枝茯苓丸料(桂枝茯苓湯)で使用される
桂枝の問題である。
その名の通り「桂枝」が使用されているのなら何の問題もないが、日本ではアタリマエのように「肉桂(にっけい)」が使用されて、本来の名前通りの「桂枝」は絶対に使用されることがない!
本来の桂枝は日本薬局方にも通らないので、奇特な知識のある専門医が特別に指示しない限りは使用できない。
薬剤師の場合はみずからの身体に使用する場合は、知識のある専門家であれば、当然、個人的に桂枝を使用している。商売としては本来の桂枝を使用したものを製造販売することは出来ないので、自分の身体だけは、辛甘・大熱の肉桂が配合された桂枝茯苓丸を使用することはない、と言いたいところだが、
現実にはこのことを知る薬剤師も医師も日本全国にはおどろくほど僅少である。
このような錯誤があっても、桂枝茯苓丸の効能に影響しなければとやかく言う必要もないが、近年次第に問題が生じ始めているので、ここで取り上げるのである。
昨今、医療機関で投与された桂枝茯苓丸のエキス製剤、服用後に顔面がほてって血圧が上昇したというケースである。もしも肉桂ではなく本来の桂枝が配合されていたとしたら、このような現象は生じなかったかもしれない。
エキス剤では肉桂の製油成分が飛んでしまって、ほとんど肉桂の影響は無いと断定するむきもあるが、とんでもない! エキス製剤でも立派に肉桂の辛甘・大熱は発揮するのである。
桂枝と肉桂は同じ原植物であっても薬用部分が異なっており、桂枝は若い細枝、肉桂は幹皮である。ともに温通散寒作用があるが、肉桂は辛甘・大熱で作用が強く、裏を温め腎陽の温補に優れている。桂枝は辛甘・温であり、作用は肉桂よりも穏やかで、主として肺・心・膀胱経に作用する。
このように薬用部分が異なれば作用の強弱もかなり異なり、命門の火を補うのを特長とする肉桂と、発表散寒・活血痛経を特長とする桂枝を混同して使用する日本の漢方には大いなる疑問符を投げかけざるをえないのである。
現実に、某女性薬剤師自身が経験していることで、肉桂を使用した製剤であれ煎じ薬であれ、頭部・顔面がのぼせる副作用が生じて連用することが困難であったが、桂枝を使用した煎じ薬を使用すると、このような副作用を生じることなく、目的の婦人科系疾患を気持ちよく治すことが出来たという証言もある。