ちょっと息抜きに繁用方剤と、ほとんど販売することがない漢方薬方剤をあげてみたい。
といっても当方ではやや特殊な漢方薬局かもしれないので、あらかじめ述べておくべきことは、他の薬局に比べて明らかに子供さんに漢方薬を販売することが極めて少ない。
また、昨今、女性のいわゆる「血の道症」を扱うことがほとんどなくなってしまった。理由は分らないが、そのような御相談がここ10年くらい僅少となっている。
さらに、ほとんど多くの方が各種西洋医学治療、病院治療で治らないために困惑されて来局されている。
病院に行くのが面倒で漢方薬を求められる方、とりわけまったくの新来の方はすべてお断りしている。
西洋医学における諸検査を怠っていたために、万一重大な疾患が隠れてた場合が困るからである。
さらには、後になって病院にも行かせずに漢方薬を売りつけていた、などとあらぬ非難も受けたくない。
といった長い前置きで、まずは
世間では繁用されるのに、当方ではほとんど販売する機会のない漢方処方から。
(1)小青竜湯(しょうせいりゅうとう)
花粉症などの一時おさえにも有用であろうが、様々な理由から当方では滅多なことでは販売しない。
対症療法なら、胃腸にも効果のある「藿香正気散(かっこうしょうきさん)」でも十分間に合うことが多いからである。
(2)八味丸(八味地黄丸)や牛車腎気丸
世間で乱用気味の附子(ぶし)剤であるが、使用する必要を感じない。辛温大熱の附子剤は、不必要に乱用すると肺陰を損傷するからである。
(3)加味逍遙散(かみしょうようさん)
血の道症で有名な方剤だが、漢方入門当初に繁用していた本方剤も、近頃はいわゆる血の道症の女性が来局するケースが稀となった分、販売することは僅少である。
(4)小柴胡湯(しょうさいことう)
古方派時代にはアレだけ販売することの多かった漢方処方であるが、中医学を一定レベルマスターして以後は、意外に小柴胡湯証を呈する人は、滅多にいないこに気がついて驚いている。
そもそも、日本で使用される大量の小柴胡湯は、ほとんど錯誤ではないかと愚考している。
考えて見れば、当方の薬局で、現在、小柴胡湯を服用している人は皆無である。
ただし、
柴胡桂枝湯については、
証に合った他の方剤とともに長年常用して持病をコントロールできている方も多い。
この柴胡桂枝湯のほうは、元鳥取大学医学部・小児科教授・堀田先生が提唱された「
自律神経発作症」や外傷性のテンカン、様々なストレス性疾患に対してとても有用だと感じている。
(5)防風通聖散(ぼうふうつうしょうさん)
おそらく一生販売することはないだろう。
このような支離滅裂な配合の方剤と言っては言いすぎだろうから、百歩譲って詳細に方意を分析すれ一目瞭然、滅多なことでは本方が適応するケースは稀である。
昨今、メタボリックシンドロームや太鼓腹および肥満の聖薬のように宣伝されているが、まずほとんど無効であろう。
それよりも、麻黄や石膏・川芎など一癖も二癖もある生薬が複数配合されているものを、ネット上でお誘い販売されることにやや疑問を呈さざるを得ない。
誰彼ナシにお誘い販売されたのでは、購入者の一部が軽度の副作用に見舞われる現象が多発しても不思議ではない。
よく販売する漢方処方
(1)茵蔯蒿湯(いんちんこうとう)
何とも、実に素晴らしい方剤です。わずか茵蔯・山梔子・大黄の三味の膂力は、それはそれは素晴らしいものです。
(2)銀翹散製剤各種
当然、風邪やインフルエンザ予防から治療まで。
それ以外にも応用範囲は多岐にわたる。
(3)六味丸系列の方剤(附子配合の八味などは除く)
これ、中医学理論を知れば、繁用方剤となるのは当然でしょう。
(4)四逆散(しぎゃくさん)
憂鬱な時代、ストレスの多い時代であるから当然と言えば、当然の繁用方剤。
(5)葛根湯系列の方剤
風邪やインフルエンザにはほとんど非力なこの方剤も、頚椎系統の疾患など、風邪関連以外で応用範囲は多岐にわたる。
だから、意外に当方では相当に販売量が多いようである。
(6)大柴胡湯(だいさいことう)
古方派時代を通じて、現在に至るまでコンスタントに繁用する方剤である。小柴胡湯証は滅多に遭遇しないが、大柴胡湯証はしばしば遭遇する。
この方剤は、日本漢方で言う実証だの虚実中間証や虚証という分類方法で使用するのであっては、しばしば小柴胡湯証や半夏瀉心湯証と間違うことだろう。
体格の良し悪しでこの方剤の証を判定してはならない。
(7)猪苓湯(ちょれいとう)
(8)五苓散(ごれいさん)
この二方剤は、どこの漢方薬局でも繁用されていることだろうが、当方でも同様である。
以上、息抜きとしてちょっとした印象を述べてみた。