茵蔯蒿湯 (いんちんこうとう) の続編である。
前回は皮膚病関連のお話が中心であったが、今回は消化器系に関連するお話である。
中医学的には「肝胆湿熱」に適応する方剤であるが、消化器系でしばしば応用して有用であるのは、当然のことながら「湿熱による黄疸」である。
これらのことは多くの書籍や各ネット検索で言われることだから、省略する。
長年重宝してきたのは、吐き気や嘔吐に対する治療効果である。
これには病院の諸検査でも原因が分からず、重大な疾患が隠れている風でもなく、ご本人さんも日頃は比較的食欲良好だが、ちょっとしたことでムカムカして吐きたくなり、なんだかみぞおちから胸部にかけてモヤモヤして不快である。
このような症状を訴える方達に、ヨソさんで半夏瀉心湯や大柴胡湯など、それらしい方剤を服用しても意外に奏功しない。
折々にムカついて嘔吐することも多い。検査に異常はあまり見られないというときに、舌苔の黄膩苔あるいは黄色の僅かな膩苔でも認められるなら、茵蔯蒿湯が適応する場合が、意外に多いのである。
このような症状の訴えの方に、この数十年間に「茵蔯蒿湯」のみ、単方で随分多くの人に喜ばれてきた。
これほど安上がりの治療薬はない。
最近あった例でも、長いお付き合いの常連さんが、一月に数回は夜中に嘔吐するが、これは自分の癖だからと諦めていたという。
日頃から、あまり丈夫な方ではなかったが、あらゆる虚弱性そのほか急性疾患までを漢方薬で解決して来ており、必要に応じて必ず病院の諸検査は受けておられる女性である。
多くのことは常用する漢方薬で解決して来たのに、この嘔吐だけはお伝えしたことがなかったが、諸検査でも異常がないのに治るだろうか、とのご相談である。
黄膩苔がかすかに認めれれるが、まずは大柴胡湯で様子を見たものの効き目がハッキリしない。
そこで伝家の宝刀、茵蔯蒿湯に変方したところ、長年の「クセ」と思われていた嘔吐癖が、ほぼ完璧に治って丸一年。
予防兼治療でまだずっと続けられているのであった。
ともあれ、悪心や嘔吐癖のある方に、あるいは嘔吐はほとんどなくとも、折々に原因不明のムカムカ感が、中医学的には肝胆湿熱が原因であるということが、意外に多いのである。
このような日常ありふれた症状に対する治療方法が、多くの専門書籍や一般啓蒙書にも指摘されてないのが現実なのであった!