いつまでも五苓散を続けるつもりはなかったが、
漢方薬・漢方専門薬局薬剤師の憂鬱
における、
五苓散と補中益気湯の併用 関連の報告などである。
たしかに、ガンや腫瘍類の全身転移による腹水や胸水、全身の浮腫など、理論的には、中医学で言う、「益気利水」の治法、補気健脾利水による方剤の配合として、補中益気湯に五苓散の併用は、一見理想的に思えるのだが、小生の経験では、この方剤の配合では、常に「暖簾に腕押し」といった感じて、ほとんど有効だったためしがなかった。
結局は、煎じ薬で、
補気建中湯に梅寄生と竹寄生を加えることで、有効だったケースばかりである。いずれも体力・気力も消耗して、外出困難に近い状態である。自立歩行すら心もとない段階に多い。
病院に通えるくらいの体力は残っている場合は、たとえば、少し体力があった60代女性の肝臓ガンによるしつこい腹水に、分消湯と茵蔯蒿湯に五苓散で、速効を得た。
各地の病院を歴訪して、様々な漢方薬や第3の医療といわれる特殊治療を受けてもすべて無効だった人であるが、各地を移動できる体力が残っていたのである。
ところが、聞く所によると、補中益気湯と五苓散の併用で、素晴らしい速効を得ているという話であるから、こういう言い方は科学的ではないが、「とても運のいい方だ!」としか思えないので、中断することなく、続服すべきであろう。
ところで、この五苓散を使用した場合に、時に、驚くほどの利水がかかってしまうことがあるのも、事実である。
悪性疾患がらみでなくとも、卵巣嚢腫や良性の脳腫瘍、全身浮腫などで、貯留していた不要の水邪が一気に排除される反応であるが、そのまま続服していると、数日以内に正常な利水レベルに戻ることが断然多い。
合成医薬品の利尿剤のように、同じ量を続けていたら、利水しすぎて体内からの水分を抜きすぎて大事になる、といったことは経験したこともないし、過去にそのような報告も、文献的にも専門誌に発表されたものを見たこともない。
だから、必要に応じて、安心して服用できる五苓散であると思うのだが、
例外のない規則はない、とも言われるから、一応、慎重な観察だけは怠るべきではないだろう。
たとえば、小生の薬局の常連で声楽をされている方。
むくみやすく、しばしば五苓散を愛用されるが、連日常用すると、少々咽喉が乾燥して、ハスキー気味になることがあり、声楽上、好ましくない現象がシバシバ起こるので、連日の服用は仕事上出来ない。
また、やや似た方剤に、シバシバ膀胱炎に利用される猪苓湯があるが、ほんの少量を使用しただけでも、頻繁な排尿と利水がかかってしまう体質の人がある。
これらの人は、折々に利用することは出来ても、常用することは出来ないので、充分注意が必要である。
多分、これで五苓散についての「漫談」は終ることになると思うが・・・・・・・。