瘀血を除去する代表的な方剤が、日本ではこの桂枝茯苓丸料(けいしぶくりょうがんりょう)である。
瘀血は、昔から「ふるち」などと言われているが、多くは二次的な病理産物であり、瘀血を生じる原因というものがある。
瘀血を生じる原因で、一番分かりやすいのは、打撲・捻挫や「女性であること」だろう。
この桂枝茯苓丸は、一般薬局でも、病院でも、盛んに使用されているが、漢方薬の中では、かなり作用が強い方剤である。
虚弱者などに、うっかり単独で使用すると、かなり体力を消耗させる場合がある。
たとえ、瘀血証があったとしても、である。
気虚などを伴っている場合に、単独で使用すると、漢方薬の評判を落としかねない。
必要に応じて、補中益気湯などを加えるべきである。
気虚によって瘀血を生じたり、逆に瘀血によって、血虚や気滞を引き起こすだけでなく、最終的には気虚を引き起こしているケースは、決して珍しくない。
ともあれ、本方剤単独で、適応する一連の症候を形成している人も珍しくないが、この場合は、ほんとうに気持がよいほど、速効と即効が得られる。
瘀血の原因については、拙著「
瘀血の原因(「瘀血阻滞」とその形成原因)」を是非、参照されたし。
本方が、婦人科疾患に使用されることが多いのは、常識的なことだから、ここでは強調する必要もないだろう。
むしろ、強調すべきは、長患いの人に、10年前、あるいは数十年前、40年前といったひともいたが、交通事故や、屋根からの転落事故、あるいは仕事中の打撲外傷事故など、そのような、本人も忘れている過去の事故歴が原因で、様々な疾患が、難治となっている場合がある。
このような時、弁証論治における血瘀の存在を軽く見て、見逃していることが多いので注意が必要である。
最近も、40年前に船の仕事中に転落事故を起こしていた人が、腰痛と足の電気的なシビレで、手術を宣告されていたのを、本方剤で、あっさりと数ヶ月で略治にこぎつけたり、年来の食欲不振が、運動中の繰り返しの打撲が原因と考えられ、本方で、かなり食欲が回復した例など。
ただ、後者は気虚などの合併した証候も多いため、他方剤の併用も多い。
要するに、一般方剤の配合で、なかなか好転しない場合は、過去の打撲事故、外傷事故などを充分に聞きだすことが必要である。
このとき、必ずしも本方剤が適応と断定できる訳ではないが、桂枝茯苓丸料に、いまはやりの「田七人参末」を加える事例が大変多い、ということである。
ただし、最初にも書いたように、適応を誤れば、漢方薬としてはキツイ部類に属するだけに、女性では、子宮が冷える、体がだるいなど、一歩間違うと、副作用的な苦情が出やすい方剤である。
適応症を誤って使用された事例としては、
※
体質によっては桂枝茯苓丸の単独使用は思わぬ弊害をもたらすという現実
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牛膝散製剤と補中益気丸(党参入り)で正解だった桂枝茯苓丸の誤投与
などが参考価値が高いように思われる。
とはいえ、強調して言えることは、
正しく使用する限りは桂枝茯苓丸の有用性は計り知れない ということである。
桂枝茯苓丸の中医学的な効能・効果については、やはり拙著の、
桂枝茯苓丸
ここを丸暗記していると便利だろう。